Will動物病院グループ

立ち止まってしまう瞬間

老猫のリリさんは今年の3月で20歳。小柄な日本猫なので、後ろ姿にも年齢を感じません。
連れて来るのは、ベテランのシッターさん。全身症状、血液検査をして、検査所見が悪化していない事を説明。何時もの薬を処方して、2週間後の通院を指示し診察終了。
そんな月日を何年も繰り返してきました。
震災の時も独りで過ごしました。心配したシッターさんが、いの一番に駆けつけてくれた事を後で知りました。
震災後の、最初の診察の時は『お前偉いな~』って言って頭を撫で撫で、本人は何時も通り、何にも変わらない顔をしています。
今日は昼からの診察、本当は朝からなのですが、ちょっと楽をさせてもらいました。
病院に入り、診察台を見ると見慣れた後ろ姿、でも何時と違う後ろ姿。
『リリさんだよね?』『どうしたの?』
今日、担当してくれた先生からの回答は『胸に水が溜まって…』
腫瘍が原因の症状か…『リンパ腫ですか?』
『恐らく』
年齢的にはもう化学療法は使えません。
連れて来てくれたシッターさんは何時もの方ではありません。相当状態が悪いのでしょう。簡単に自己紹介して本題へ。
至急、飼い主さんと連絡を取らなければなりません。
『飼い主さんに病院に連絡をするように手配してください。』
リリさんはご家族の理由で、ずっ~と独り暮らしをしています。これまで飼い主さんとは、一度も連絡を取り合ったことはありません。
間もなく、連絡が入りました。現状と出来る治療、出来ない治療やるべきでない治療内容の説明を行い、本題へ。
『入院はどうされますか?』
『独りで亡くなるのは可哀想ですが、一番安心する場所ですごさせてあげたいと思います』
『そうですね。』
ヤブはヤブなりに月日を重ねていますので、迷う事はありません。自分に置き換えて考えても痛みさえなければ、独りぼっちで死んでいくことに恐怖はないでしょう。飼い主さんの選択は、私が望んだ回答でもあります。
でも、こんな時だけは立ち止まって過去を振り返ってしまいます。生きことを考える瞬間です。これから2週間、リリさんに明るく声を掛けてあげる為に。

文責 千葉 剛